釧路地方裁判所北見支部 事件番号不詳 判決
主文
被告人を罰金壱万五千円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金弍百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
訴訟費用は、そのうち証人田中義雄に給した分を除き、その他は全部被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、歯科技工師であるが、歯科医師でないのに拘らず、常呂郡置戸村字置戸の被告人住居において
(一)、昭和二十五年二月頃、常呂郡置戸村字置戸金山惣蔵の依頼を受け、上歯四本の義歯を篏入すべく、その歯牙脱落部の型を採り、義歯を作り、これを同人の歯牙脱落部に篏入して、料金二千円を収受し、
(二)、同年三月頃、同村字置戸新伝みやの依頼を受け、上総義歯並に下前歯六本を除く義歯を篏入すべく、型を採り義歯を作りこれを同人の歯牙脱落部に篏入して、料金七千円を収受し、
(三)、右同月頃、同村字置戸柳橋七郎の依頼を受け、上総義歯を篏入すべく、型を採り義歯を作り、これを同人の歯牙脱落部に篏入して、料金を収受し、
(四)、右同月頃、同村字置戸佐久間甚の依頼を受け、上総義歯を篏入すべく型を採り義歯を作り、これを同人の歯牙脱落部に篏入して料金四千円を収受し、
(五)、同年四月頃、同村字置戸伊藤多一の依頼を受け、上下総義歯を篏入すべく、型を採り義歯を作り、これを同人の歯牙脱落部に篏入して、料金参千円を収受し、以て歯科医業を為したものである。
(証拠省略)
(法令の適用)
被告人の判示所為は、歯科医師法第十七条、第二十九条第一項、罰金等臨時措置法第二条第一項に該当するから、所定刑中罰金刑を選択し、その所定罰金額の範囲内で、被告人を罰金壱万五千円に処し、罰金不完納の場合には刑法第十八条に則り金弍百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することゝし、訴訟費用については、刑事訴訟法第百八十一条第一項を適用して、主文掲記のとおりその一部を被告人に負担せしむべきものである。
被告人及弁護人は、本件義歯はこれを歯牙脱落部に定著せしめず取外し自由のものであるから、義歯を篏入したことにはならない。他人の歯牙脱落部の型を採り、これによつて義歯を製作し、これを右脱落部に適合するか否かを試適して義歯を修正するなどの行為は、歯科技工師のなし得る業務範囲に属し、歯科医師免許を有することを必要としないから、歯科医師法に牴触しない旨、主張するにつき、この点について按ずるに、なるほど判示(一)乃至(五)の各義歯はいずれも歯牙脱落部に定著せしめたものでなく、自由に取外し得るものであることは明かであり、又義歯を製作すること自体は、固とより技工の範囲に属し、所謂、歯科技工師においてもこれをなし得ることは勿論であるけれども、これを患者に施用するに方つては歯牙歯齦その他口腔の状態を診察してこれを施すの適否を判断し、患部に即応する施術を為すを必要とし、その巧拙如何は被術者の健康に影響を及ぼすべきが故に、製作した義歯を歯牙脱落部に数回篏めたり抜いたりして、その間咬合の具合を検したり、或は残存歯牙を磨削したり、義歯を修正したりして、結局患部に即応せしめる行為は、歯科医師のみがなし得る義歯篏入施術に属し、既に義歯製作の領域を逸脱せるものと謂はなければならない。被告人が判示各依頼者に対し、右の如き趣旨の義歯篏入行為をしたことは、前記挙示の証拠によつて充分にこれを認めることができるから、被告人及弁護人の右主張はこれを認容することができない。
なお、本件公訴事実中、被告人が田中義雄の依頼により同人の歯牙に金冠を篏入したと謂う点については、犯罪の証明が十分でないが、この点は判示の各行為と共に業態犯行の一部として起訴されたものであるから、特に主文において無罪の言渡をしない。叙上理由によつて主文のとおり判決する。
(昭和二六年五月八日釧路地方裁判所北見支部)